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猫の愛着とオキシトシン分泌に関する研究
2025年7月16日
2025年7月15日配信
猫の愛着スタイルとオキシトシン分泌に関する研究
=飼い主との関わりが猫の行動とホルモン分泌に与える影響=
【研究の目的と背景】
この研究は、猫の愛着スタイル(secure:安定型、anxious:不安型、avoidant:回避型)によって、飼い主との関わり方やオキシトシン分泌が異なるかどうかを調べたものです。犬ではすでに愛着スタイルと行動・ホルモン反応の関連が研究されていますが、猫ではこれまでほとんど検討されていませんでした。本研究はこの知見の空白を埋め、猫の行動的健康と飼い主との関係性の理解を深めることを目的としています。
【研究デザインと方法】
・対象は30匹の飼い猫で、Secure Base Test(SBT)によって愛着スタイルを分類。
・飼い主との自由な相互作用の様子を観察し、唾液中のオキシトシン濃度を飼い主との接触の前後で測定。
・行動特性と問題行動についてはアンケートで評価。
【主な結果】
○オキシトシンの分泌パターン
・安定型の猫では、飼い主との交流後に唾液中オキシトシンが有意に増加(P=0.03)。
・不安型では、逆にオキシトシンが減少する傾向(P=0.08)。
・不安型の猫は基礎的なオキシトシン値が高かった(P=0.03)。
○行動の違い
・安定型の猫は、飼い主に自発的に近づく・近くにとどまるなどの接近行動が多く、逃避行動は少なかった。
・飼い主側も、安定型の猫には強制的な接触をあまり試みなかった。
・接近行動とオキシトシン増加には有意な正の相関(P<0.01)、接近行動と基礎オキシトシン値には負の相関(P=0.01)。
○問題行動との関連
・安定型の猫は、不安型や回避型と比較して、恐怖スコアや問題行動の頻度が有意に低かった(P<0.01)。
【臨床応用と意義】
この研究は、猫の愛着スタイルがオキシトシン分泌と関連し、それが飼い主との関係性や問題行動に影響を及ぼす可能性を示しています。獣医師にとって、行動問題のある猫の診察時に、猫と飼い主の関係性(愛着スタイル)や相互作用の質に注目することは、行動管理や問題行動の予防・治療に役立つでしょう。また、飼い主に対して適切な接し方(猫主導の関わりを尊重すること)を指導することで、猫の精神的健康を促進する介入も考えられます。
【結論】
猫と飼い主の相互作用は、猫の愛着スタイルにより異なり、それに応じてオキシトシン分泌や行動問題の発現に差が出ることが確認されました。愛着スタイルに基づく個別対応は、猫の福祉向上に有用であると考えられます。今後は、猫の基礎オキシトシン濃度の違いがなぜ生じるのかについても、さらなる研究が求められます。(文責:メールマガジン編集部)
※『The effects of owner-cat interaction on oxytocin secretion in pet cats with different attachment styles』
著者: Hao Chang, Jie Zhang, Haitao Huang, 他
発行年: 2025年 https://doi.org/10.1016/j.applanim.2025.106524