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主題と目的

2025年7月22日

2025年7月22日配信

主題と目的

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもが家庭内の犬や猫との関係を通じて、社会的スキルや心理的健康にどのような影響を受けるかを、保護者の視点から調査したものです。ASD児は同年代の定型発達児と比べて社会的交流の頻度が少なく、孤立や不安を抱えやすいという課題があり、家庭内での対人関係(ヒューマン・アニマル・インタラクション)がそれを補う手段となる可能性が指摘されています。
【研究方法】
○参加者: 自閉症の子どもを持つ保護者65名
○調査内容: 子どもとペット(犬または猫)との愛着関係、ポジティブ/ネガティブな関わり、子どもの社会的行動や心理状態(SDQスコア)
○分析手法:
・定量調査(質問紙による回帰分析)
・定性調査(自由記述のテーマ分析)
【主な結果と発見】
●定量分析(質問紙)
○ポジティブなペットとの関わりは、子どもの向社会的行動(例:他者への思いやり)と有意に正の相関を示しました(β = 0.40, p = 0.006)。
○ただしペットへの愛着やネガティブな関わり(怒る、叩くなど)と心理的問題(不安、過活動、反抗行動など)との関連は見られませんでした。
○ペットの種類(犬と猫)による影響の差も統計的には有意でありませんでした。
●定性分析(自由記述)
保護者の記述から、以下の5つのテーマが導かれました。
1.不安軽減・感情調整・睡眠改善
ペットの存在が子どもの情緒安定に貢献し、メルトダウンの軽減や睡眠の質向上に寄与。
2.自己理解と他者理解の促進
ペットの気持ちを推測する中で、子ども自身の感情や他者の立場を理解する力(認知的共感)が育つ。
3.コミュニケーションと対人関係
ペットが会話のきっかけや練習台となり、対人スキルの向上に寄与。「ペットに話しかけることで会話の練習になる」という保護者の声も。
4.安心感と心理的サポート
ペットとの強い絆が子どもにとって心の支えとなり、落ち着きや自己肯定感をもたらす。特に「人には話せないがペットには話せる」という傾向が見られた。
5.ペットへの過剰な依存や心配
ペットとの離別時やペットの健康への不安が子どもに新たなストレスを与える可能性も報告された。
【臨床への応用】
○家庭内での自然な介入法としてペットとの関係を活用できる可能性があります。特に、感情調整が難しい子どもへの非言語的なサポートや、社会的行動を学ぶツールとしての活用が期待されます。
○ただし、ペットの福祉にも配慮が必要であり、ペットのストレスや負担がかからないよう、親が監督することが重要です。
○また、ペットによる支援がすべてのASD児に適しているとは限らないため、個別の感覚過敏や不安傾向を考慮したうえでの判断が求められます。
【結論】
ポジティブなペットとの関わりは、自閉症の子どもの向社会的行動を促進し、情緒の安定にも寄与する可能性があります。今後、獣医師や保護者向けのガイドライン作成に役立つ知見であり、ペットと子どもの双方にとって有益な関係を築くための支援体制構築が期待されます。

(文責:メールマガジン編集部)

※『He’s Practising His Learned Social Skills on the Cat’: A Mixed-Methods Investigation of Parental Perspectives of the Role of Pets in Autistic Children’s Social Skills and Wellbeing』
著者: Claire Wilson, Carrie Ballantyne, Roxanne D. Hawkins
発行年: 2025年 https://doi.org/10.3390/bs15040419

 

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