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猫の視覚的シグナルに関する解析ー耳と尾の動きの意味
2025年7月31日
2025年7月29日配信
猫の視覚的シグナルに関する解析:耳と尾の動きの意味
【研究の目的と背景】
本研究は、猫同士および猫と人との相互作用において、視覚的な身体構成、特に「耳」と「尾」の位置がどのような意味を持つのかを調べたものです。動物間のコミュニケーションは、距離の調節や関係性の構築において重要な役割を果たしますが、猫における視覚的シグナルの中でもどの部位がより重要なのか、そしてそれがどのように行動結果に影響するのかが明確にされていませんでした。
【研究方法】
●観察対象:フランスの動物保護施設に住む29頭の猫
●観察期間:冬と夏の合計100時間
●方法:猫同士の254回の相互作用と、猫と人間の104回の相互作用を観察
●記録項目:相互作用の開始時における耳と尾の位置、および相互作用の結果(友好的・中立 vs 否定的)
【主な結果と知見】
1. 猫同士の相互作用(cat-cat interactions)
●約76%の相互作用で、両猫とも「尾は下げて」いた。
●耳の位置が相互作用の結果を最も強く予測する指標であることが判明。
・両猫の耳が立っている(erect)場合は、80%以上が友好的な接触(すり寄り、舐め合い、近距離での静止)へとつながった。
・一方、耳が立っていない(flattenedやbackward)状態では、逃避、威嚇、回避などの否定的な結果が多く見られた。
・尾の位置だけでは、猫同士の相互作用の結果を予測するには不十分であった。
2. 猫と人間の相互作用(cat-human interactions)
●約98%のケースで、猫は「尾を上げて(tail-up)、耳を立てた状態」で人に接近していた。
●尾を下げているときは、常に耳も非立位であり、警戒や不安のサインと解釈できる。
【臨床への応用と意義】
●耳の位置は猫の情動状態を示す強力な指標であり、診察や入院管理時に猫の耳の向きを観察することで、ストレスレベルや攻撃性の予測に役立ちます。
●尾の上げ下げのみで猫の感情を判断するのは不十分であり、耳の動きとの組み合わせ(視覚的構成)を見ることが推奨されます。
●猫が人間に尾を立てて近づくのは、「母猫への甘え」に似た行動であり、人間を信頼できる存在として認識している可能性があります。
【結論】
本研究により、猫同士の視覚的コミュニケーションにおいて、尾よりも耳の位置が重要な役割を果たすことが明らかになりました。一方で、猫が人に接近する際は尾の上げ下げが重要なシグナルとなることも示されました。獣医師はこれらの行動シグナルを理解することで、猫の行動評価やストレスマネジメントに役立てることができます。
(文責:メールマガジン編集部)
※『Heads and Tails: An Analysis of Visual Signals in Cats, Felis catus』
著者: Bertrand L. Deputte, Estelle Jumelet, Caroline Gilbert, Emmanuelle Titeux
発行年: 2021年 https://doi.org/10.3390/ani11092752