DVMsどうぶつ医療センター横浜農林水産省獣医師臨床研修指定施設

会員病院向け情報

チェリー・アイの最新情報から紐解く

2025年8月13日

2025年8月12日配信

チェリー・アイの最新情報から紐解く

 昨年(2024年)2月、学術誌Genes(Basel)に「FGF4L1レトロジーン(※1)と犬の瞬膜腺脱出(チェリー・アイ)との関連性」という論文が発表されました。

 この論文はアメリカ巨大企業病院(バンフィールド・ペット・ホスピタル)の傘下で集められた76万9,337頭の電子カルテとDNAサンプルを解析したものでした。
しかし内容は特定犬種の原因遺伝子を同定した発表ではありませんでした。今回はこれに関連するお話です。

 チェリー・アイは瞬膜腺脱出の俗称で、瞬膜が反転して瞬膜腺が眼瞼裂内眼角に脱出した状態を指します。ほとんどの症例は2歳未満で発症します。

 片眼または両眼で認められますが、片眼が比率3:2でやや多くみられます。痛みや視覚障害は通常ありません。
しかし無治療症例の約43%が、ドライアイを発症すると言われています。
 チェリー・アイの標準的治療は手術です。かつて瞬膜腺摘出を実施していたことがありました。しかしその手術後のドライアイ発症率が50%であったこと、

 また瞬膜腺を摘出せず眼窩内に収める手術のドライアイ発症率が14%であったことから、今では瞬膜腺を摘出しない手術が主流です。
術式としてアンカー法、ポケット法、腹直筋固定法などがあります。しかし手術後の問題は再発です。慢性または広範な脱出ではアンカー法・固定法が好ましく、
若齢動物や軽症例ではポケット法が推奨されでいます。

 日本での企業病院といえばイオングループのイオンペット、アメリカ企業病院のVCA Japan、金融ファンドのWOLVES Handがあり、場合によっては損害保険
会社アニコムどうぶつ病院グループも挙げられます。日本でも電子カルテを駆使したビッグ・データによる臨床研究が民間機関から発表される状況に来ています。

 今回のビッグ・データ論文では、チェリー・アイの有病率が高いイングリッシュ・ブルドッグ、コッカー・スパニエル、ボストン・テリアはFGF4L1由来アレル
の頻度が驚くほど低く、また交雑犬の成績は純血種犬よりもFGF4L1レトロジーンとチェリー・アイとの関連性が高いことを示しています。
 これは有病率が高い犬種のサンプルを用いて行う従来の遺伝子解析手法とは全く違った次元の結果を導いています。ビッグ・データ情報はこれまでの見方や
常識を覆すかもしれません。

 昔から「症例は生きた教科書だ」と言われます。発表されたビッグ・データ情報を活用していくためには、犬種を問わず、生まれてから死ぬまで診る卓越した
臨床スキルが求められています。
※1:レトロジーンとは「逆行遺伝子」とも呼ばれ、mRNAから逆転写酵素によって作られたDNAコピーがゲノムの別の場所に挿入されて、新たな機能を持つ
ようになった遺伝子を指します。
〈文責:DVMs眼科 印牧信行〉


pagetop

pagetop