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猫と大きな生活変化-問題行動を未然に防ぐための臨床指導-

2025年9月16日

2025年9月16日配信

 

猫と大きな生活変化-問題行動を未然に防ぐための臨床指導-

 

背景と目的
猫は「変化を嫌う動物」として知られています。日常生活の小さな変更でさえストレスの原因となり、排泄の失敗、攻撃性の増加、過剰な隠れ行動などの問題につながることがあります。特に引っ越し、家族の増員(新生児やペットの導入)、長期の不在、リフォームといった大きな生活変化は、猫の適応能力を超える強いストレスとなりやすいとされています。
臨床現場では、飼い主が「問題が起きてから」相談するケースが多いですが、本稿では予防的に飼い主へ指導することの重要性が強調されています。

1.早めの介入が鍵

新しい子猫を迎えたときやワクチン接種などの初期通院時は、飼い主教育の絶好のタイミングです。将来の生活変化を想定した「猫のストレス反応」について情報提供しておくと、予防的な環境調整や準備行動を取る可能性が高まります。

 

2.教育ツールの活用

○印刷物や院内掲示:「引っ越し予定ですか?猫に伝えましたか?」といったキャッチコピーを用いた資料は、飼い主の関心を引きやすい。
○ウェブサイトやメール配信:事前にアクセスできる情報源を提供することで、来院前から学びが始まります。
○予診票の質問項目:生活変化予定をチェックリスト化すると、見過ごされがちな不安要因を拾いやすくなります。

 

3.具体的な準備方法

○環境エンリッチメント:キャットタワーや高所の設置、隠れ場所の確保、フェロモンディフューザーの使用などにより、猫が「安全に選択できる空間」を持つことが重要です。
○慣れのプロセス:新しい家具や赤ちゃん用品は事前に匂いを移しておくと、導入時の抵抗が減ります。衣服やブランケットを使った「匂いの橋渡し」は有効です。
○段階的な曝露:赤ちゃんの泣き声や工事音などの新しい刺激は、低音量から少しずつ慣らし、食べ物や遊びと関連づけてポジティブな経験に変換します。
○キャリー慣れ:移動や隔離の必要に備え、キャリーケースを日常的に安全基地として使えるようにしておくことが推奨されます。

 

4.問題のサインを見逃さない

生活変化後、猫が2週間以上隠れ続ける、トイレ以外で排泄する、攻撃性を示す、体重減少や消化器症状が出るといった行動が続く場合は「適応不全」と判断されます。こうした場合、環境調整に加えて 抗不安薬や行動修正薬の投与が検討されます。

 

【臨床応用-獣医師ができること-】
○予防的カウンセリング:日常の健康診断や予防医療の場面で「今後の生活変化予定」を確認する。
○個別プランの作成:飼い主と一緒に「引っ越しマニュアル」「新しいペット導入マニュアル」などを作成し、チェックリストとして渡す。
○心理的サポート:飼い主が「猫が慣れないのは自分の責任」と感じて落ち込むケースもあるため、「これは自然な反応であり、支援がある」と伝えることで安心感を与える。

 

【結論】
猫にとって生活の変化は大きなストレス要因ですが、獣医師が早期に介入し、飼い主に対して準備方法を伝えることで、多くの行動問題を未然に防ぐことが可能です。特に「隠れ場所の提供」「匂いと音への事前馴化」「キャリー慣れ」の3点は効果的です。臨床現場でこうした助言を積極的に行うことは、行動医学の専門家だけでなく一次診療を担う獣医師にとっても重要な役割といえるでしょう。

 (文責:メールマガジン編集部)

 

※『Talking to Clients About Cats & Major Life Changes』
著者: Meghan E. Herron, DVM, DACVB
発行年: 2025年
出典: Clinician’s Brief, Fall 2025, Vol 23 No 3, pp.16-17

https://www.qgdigitalpublishing.com/publication/?i=850710&p=8&view=issueViewer

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