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持続血糖モニター(CGM)の応用-犬猫糖尿病管理における新しいスタンダード-
2025年9月23日
2025年9月23日配信
持続血糖モニター(CGM)の応用-犬猫糖尿病管理における新しいスタンダード-
背景と目的
糖尿病の犬猫の管理では、血糖値の推移を正確に把握することが治療成功の鍵です。従来の血糖曲線は採血ストレスや測定間隔の制約により、必ずしも実際の血糖変動を反映しませんでした。
そこで近年注目されているのが 持続血糖モニター(Continuous Glucose Monitor: CGM、以下、CGM)です。これは皮下に挿入したフィラメントで間質液中のグルコースを測定し、リアルタイムで血糖変動を可視化するデバイスです。本稿(Thomas Schermerhorn, VMD, DACVIM & Jose Estrada, DVM, MS)は、CGMの原理と適応と臨床での使い方を詳細に解説しています。
【CGMの仕組みと利点】
○測定原理:センサー内の酵素反応で間質液中のブドウ糖を検出。血液との間に数分のタイムラグがありますが、全体の傾向を把握するには十分。
○測定頻度:1分ごとに測定、15分ごとに記録。数週間の連続測定が可能。
○利点
①採血回数を減らせる(動物・飼い主双方のストレス軽減)。
②低血糖や高血糖の発作をリアルタイムに検知できる。
③データをクラウドにアップロードし、飼い主と共有できる。
④血糖曲線よりも「生活下での変動」を把握しやすい。
【臨床応用例】
1.糖尿病犬猫の長期管理
○インスリン投与後の効果持続時間や作用ピークを把握。
○投与量調整に役立つ。
2.糖尿病性ケトアシドーシスの入院管理
○頻回採血を避けつつ、血糖動態を連続的に観察。
3.非糖尿病性疾患での応用
○インスリノーマ
○小児期低血糖
○低血糖発作を伴うその他疾患
【装着方法(ステップガイド)】
装着部位の選択:頸背部、肩甲間、側胸部、腰背部など。動物が干渉しにくい部位を選ぶ。
装着部位の準備:被毛を刈毛し、クロルヘキシジンとアルコールで清拭。乾燥を徹底する。
センサー装着:専用アプリケーターを用い、皮下にフィラメントを挿入。接着強度を高めるため組織接着剤を併用する。
初期化:装着後60分の「湿潤時間」を経て計測開始。専用リーダーやスマートフォンでデータ確認。
モニタリング:リアルタイム血糖値、トレンド矢印、グラフが表示される。
【注意点と合併症】
皮膚トラブル:発赤、痒み、潰瘍、感染など。接着剤やセンサー素材が原因になることがある。
早期脱落:本来14日程度持続するが、犬で約70%、猫で約60%しかフル期間使用できないという報告もある。
データ解釈:低血糖の数値は必ず臨床症状と併せて評価。機器の警報だけで判断しないように飼い主への説明が必要。
費用とオーナー教育:機器代・センサー代がかかるため、使用前にメリット・デメリットを十分に説明する。
【臨床での工夫】
飼主教育:インスリン投与を自己調整しないよう指導。低血糖警告が出ても症状がなければ慌てないよう説明。
多施設連携:クラウド経由でデータを共有できるため、プライマリケアと二次診療施設での協働に有効。
再装着トレーニング:猫では慣れてくると再装着の持続時間が延びる傾向がある。
【結論】
CGMは、犬猫糖尿病のモニタリングにおいて従来の血糖曲線を大きく補完しうるツールです。低侵襲かつ高頻度で血糖動態を把握できるため、治療調整や飼い主教育に極めて有効です。合併症や早期脱落などの課題はあるものの、今後は糖尿病管理の「新しい標準」となる可能性があります。
臨床現場では積極的に導入を検討すべき技術といえるでしょう。
(文責:メールマガジン編集部)
※『Application & Use of a Continuous Glucose Monitor in Cats & Dogs』
著者: Thomas Schermerhorn, VMD, DACVIM (SAIM); Jose Estrada, DVM, MS
発行年: 2025年
出典: Clinician’s Brief, Fall 2025, Vol 23 No 3, pp.48-58
https://www.qgdigitalpublishing.com/publication/?i=850710&p=8&view=issueViewer

