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高齢猫の変形性関節症治療-薬だけに頼らない6つの戦略-

2025年10月14日

2025年10月14日配信

 

背景と目的
変形性関節症(Osteoarthritis: OA)は高齢猫に極めて高頻度に認められる疾患で、研究によると9割近くの老齢猫にX線学的所見がみられるとされています。

しかし犬と異なり猫では跛行が目立たず、「ジャンプをしなくなった」「毛づくろいをやめた」「粗相が増えた」といった行動変化で気づかれることが多いのが特徴です。
本稿(Kate Barnes, DVM, MS, DACVS-SA)は、猫OAに対する代表的な6つの治療オプションを紹介し、臨床現場で実践できる包括的な管理法を整理しています。

 

治療の6つの柱
1.疼痛管理(Pain management)
○NSAIDs(例:メロキシカム、ロベナコキシブ)が第一選択。ただし腎障害リスクがあるため低用量・間欠投与を推奨。
○フルネベトマブ(抗NGF抗体、米国FDA承認済)は、長期安全性データは限定的ながら有望。
○補助療法としてトラマドールやガバペンチンも選択肢。

 

2. 環境調整(Environmental modification)
○高所に上がるためのステップやスロープ設置。
○大きく浅いトイレ、床暖房やクッション性の高い寝床を用意。
○フェロモン拡散器を使用して安心感を高める。

 

3. 体重管理(Weight management)
○肥満は関節への機械的負担と炎症を悪化させる。
○食事管理(低カロリー食、パズルフィーダー)、運動療法を組み合わせる。
○飼い主との協力体制が不可欠。

 

4. 運動療法(Exercise modification)○強制的な運動ではなく、猫が自ら選択できる遊びや活動を推奨。
○運動器リハビリ専門医による筋肉増強プログラムも有効。

 

5. サプリメント(Joint supplements)
○オメガ3脂肪酸(EPA/DHA)で炎症を抑制。
○緑イ貝抽出物、グルコサミン・コンドロイチンなどの補助療法も一部研究で有効性が示唆。
○効果は緩やかであり、飼い主に「長期投与が前提」と説明する。

 

6. 外科的治療(Surgery)
○原因疾患が明確な場合(例:膝前十字靭帯断裂、股関節脱臼)は外科治療が第一選択。
○大腿骨頭切除や人工股関節置換は適応を選べば良好な結果を得られる。
○OA自体に対する予防的効果も期待できる。

 

臨床での工夫
○診断時の注意
OAはX線で確認できても症状と一致しない場合があるため、「画像+行動変化+身体所見」を総合して判断。
○飼い主教育
「年齢のせい」ではなく「痛みのサイン」であることを強調。行動変化(ジャンプを避ける、グルーミング減少、攻撃性増加など)

を示すチェックリストを配布すると理解が進む。
○フォローアップ
治療導入後は3か月ごとに評価し、体重・活動性・生活の質を確認。特にNSAIDs使用中は定期的な血液検査で腎機能をモニターする。

 

結論
高齢猫のOA管理は、「薬+環境+体重+生活習慣」を組み合わせる包括的アプローチが最も有効です。薬物治療のみでは限界があり、

飼い主と二人三脚で行動環境の改善を進めることが、猫の生活の質を大きく向上させます。
OAは進行性疾患ですが、早期介入と多角的治療により、猫が快適に老齢期を過ごせる可能性を大きく高めることができます。

 

※『Top 6 Osteoarthritis Treatment Options for Geriatric Cats』
著者: Kate Barnes, DVM, MS, DACVS-SA
発行年: 2025年
出典: Clinician’s Brief, Fall 2025, Vol 23 No 3, pp.61-68

https://www.qgdigitalpublishing.com/publication/?i=850710&p=8&view=issueViewer

 

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