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猫喘息の診断と管理 =慢性呼吸器疾患との鑑別と長期治療戦略=

2025年11月22日

2025年11月18日 配信

 

猫喘息の診断と管理 =慢性呼吸器疾患との鑑別と長期治療戦略=

 

背景と目的

猫喘息(feline asthma)は、慢性的な気道炎症と可逆的な気道収縮を特徴とする疾患で、発症猫はしばしば咳、喘鳴、呼吸困難を示します。

発症率は決して低くなく、未治療では生活の質を大きく損なうだけでなく、急性増悪によって命に関わることもあります。

臨床症状や画像所見が他の呼吸器疾患と重なるため、鑑別診断と適切な治療選択 が獣医師に求められます。

本稿(Carol Reinero, DVM, PhD, DACVIM)は、診断アルゴリズムと治療法を整理し、臨床現場での実践的な対応指針を提示しています。

 

診断アプローチ

1.臨床症状と身体検査
慢性の咳、喘鳴、労作時呼吸困難が典型的ですが、急性呼吸困難として救急来院するケースもあります。

2.画像検査
○胸部X線では「気管支パターン」「気管支間質パターン」「肺葉虚脱」「過膨張」などが見られます。
○ただし、正常X線でも喘息を否定はできません。

3.鑑別診断
○心疾患(心雑音やBNP測定、心エコー)
○寄生虫性肺疾患(Aelurostrongylus、Toxocara、フィラリア関連呼吸器疾患)
○慢性気管支炎
必要に応じて寄生虫駆除の試験投与や気管支洗浄を行います。

4.気管支拡張薬トライアル
発作時にテルブタリンやアルブテロールを投与し、反応を確認することで喘息の可能性を高めます。

 

治療戦略

1.グルココルチコイド○長期管理の中心であり、生涯投与が基本です。
○経口プレドニゾロン(除脂肪体重に基づく用量で1日1回)、あるいはフルチカゾンなどの吸入薬が有効。
○経済的・実用的な理由で吸入が困難な場合、デポ剤(メチルプレドニゾロン注射)も選択肢ですが副作用リスクを考慮。
○経皮製剤は無効とされています。

2.気管支拡張薬
○咳のみの場合は不要。
○発作時には救急薬として吸入アルブテロールや皮下注テルブタリンを用います。
○頻回発作や持続的な喘鳴には、テオフィリンなどの経口薬や吸入型長時間作用薬+ステロイド併用も検討。

3.環境管理
○タバコ煙、芳香剤、埃、花粉などの吸入刺激を避ける。
○特定アレルゲンが同定された場合には回避を指導。

4.体重管理
○肥満は呼吸機能に大きな悪影響を与えるため、減量プログラムを導入。

 

臨床応用-実際の診療での工夫-

○発作を繰り返す患者では、飼い主に「救急用吸入薬の使い方」を指導し、シリンジにプリロードしたテルブタリンを

自宅で使用できるようにするのも有効。
○治療開始後は毎月再評価を行い、症状・QOL・体重の変化を確認しながら薬剤を調整。
○吸入ステロイド導入時は7~10日間の経口ステロイドとの併用期間を設け、効果発現を待つ。
○治療効果が不十分な場合は、逆流性疾患(GERD)や誤嚥、気管支拡張不全などの併発疾患を疑い専門医紹介も検討。

 

結論

猫喘息は「除外診断」に基づく疾患であり、確定診断の難しさゆえに慢性気管支炎や寄生虫疾患と混同されやすい点に注意が必要です。

治療の基本はグルココルチコイドによる炎症コントロールであり、気管支拡張薬はあくまで補助的な役割です。

環境改善と体重管理も欠かせません。
本稿のアルゴリズムを臨床に活用することで、診断精度が高まり、患者と飼い主双方のQOL改善につながるでしょう。

 

※『Asthma in Cats』
著者: Carol Reinero, DVM, PhD, DACVIM (SAIM)
発行年: 2025年
出典: Clinician’s Brief, Fall 2025, Vol 23 No 3, pp.18-19

https://www.qgdigitalpublishing.com/publication/?i=850710&p=8&view=issueViewer

 

 

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