犬猫の乳腺腫瘍に対する外科治療と疼痛管理 ＝適切な切除範囲と多面的疼痛対策による治療の最適化＝

2025年11月29日

2025年11月25日配信

 

犬猫の乳腺腫瘍に対する外科治療と疼痛管理
＝適切な切除範囲と多面的疼痛対策による治療の最適化＝

 

研究の概要と目的

本論文（Ehrhart, 2025）は、犬および猫の乳腺腫瘍に対する外科的切除の基本方針と、

術後疼痛管理の最新エビデンスをまとめた総説です。乳腺腫瘍は犬では約50％が良性ですが、

良性腫瘍既往犬は悪性化リスクが上昇し、継続的なモニタリングが必要とされています。

悪性腫瘍の最大50％がリンパ節や肺への転移を起こすため、全身のステージング評価が不可欠です。

猫では腫瘍の80％以上が悪性で、早期かつ積極的な外科介入が予後を大きく左右します。

 

犬の手術法と臨床指針

犬では、最も単純な方法で完全切除（clean margin）を得ることが推奨されます。

主な術式は次の通りです。

○ルンペクトミー（Lumpectomy）：5mm未満の小型・可動性良好な腫瘍
○マンマクトミー（Mammectomy）：単一乳腺の中央部に腫瘍が存在する場合
○リージョナル乳腺切除（Regional mastectomy）：隣接乳腺にまたがる場合
○片側乳腺全摘（Unilateral mastectomy）：同一側の複数腫瘍
○両側乳腺全摘／段階的片側乳腺切除：両側性病変
○ラジカル切除（Radical mastectomy）：体壁への浸潤例

 

麻酔下で追加病変が発見されるケースが多いため、オーナーには術式拡大の可能性を事前説明することが重要です。

 

猫の手術法

 

猫の乳腺腫瘍は悪性率が高く、早期・広範囲切除が標準治療とされます。

推奨術式は以下の通りです

○片側全摘（unilateral mastectomy）を2～4週間間隔で両側実施する段階的アプローチ
○両側同時切除は、疼痛・創緊張・呼吸障害などの合併症が多いため非推奨
○腫瘍が体壁に固着している場合はラジカル切除を検討
摘出した全組織は乳腺位置ごとに分けて病理提出し、混在する良性・悪性腫瘍を正確に判定します。

 

疼痛管理：多面的アプローチの重要性

 

乳腺切除は中等度～重度の疼痛を伴うため、多剤併用（multimodal analgesia）が推奨されます。

疼痛管理は動物福祉だけでなく、免疫抑制や腫瘍拡散防止にも寄与します。

 

1.全身性鎮痛薬（systemic analgesics）

○メサドン：トラマドールより優れた鎮痛効果を発揮（術前・術中投与推奨）
○NSAIDs + ガバペンチン：相乗的に疼痛抑制し、オピオイド使用量を低減
○ケタミン持続投与（CRI）：オピオイド鎮痛の強化と摂食行動改善
○マロピタント：制吐・抗炎症効果を併用
○デクスメデトミジン：α2作動薬として鎮静・鎮痛補助

 

2.局所麻酔法（local/regional techniques）

○切開線浸潤麻酔（リドカインまたはブピバカイン）：術中・術後に有効
○リポソーム型ブピバカイン注射液：72時間持続鎮痛を提供、犬猫で承認済み
○硬膜外麻酔、傍脊椎ブロック、TAPブロック：広範囲手術で推奨
○肋間神経ブロック：胸部乳腺切除に有効

 

3.術後管理と飼い主指導

○鎮痛薬の投与スケジュールと疼痛サイン（食欲低下・動きの鈍さ・呼吸変化）を指導
○全摘後は必ず病理提出し、再発・転移リスクを評価

 

臨床的まとめ

 

●犬：腫瘍の範囲と浸潤性に応じ、最小侵襲で完全切除を目指す。
●猫：悪性率が高く、原則として段階的両側全摘が標準治療。
●疼痛管理：オピオイド・NSAIDs・局所麻酔を組み合わせた多面的アプローチが必須。
●組織診断：全切除検体の部位別提出で病変の混在を見逃さない。

 

これらの手法は、動物のQOL向上と再発予防、そして抗がん治療全体の成功率向上につながるとされています。

 

文責：メールマガジン編集部

 

※『Surgical Treatment for Mammary Tumors in Dogs & Cats / Pain Management for Mastectomy』
著者：Nicole Ehrhart, VMD, MS（Colorado State University）
発行：Clinician’s Brief
発行年：2025年8月

https://www.cliniciansbrief.com/article/surgical-treatment-mammary-tumors