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救急現場での抗菌薬使用、やってはいけない5つの誤り=ISCAIDガイドラインに基づく適正使用の再確認=
2025年12月2日
2025年12月2日配信
救急現場での抗菌薬使用、やってはいけない5つの誤り
=ISCAIDガイドラインに基づく適正使用の再確認=
研究の概要と目的
本稿(Davidow, 2021)は、救急診療における抗菌薬の誤用を減らすための実践的レビューであり、
ISCAID(国際伴侶動物感染症学会)ガイドラインに沿って、特に頻発する「5つの不適切使用例」とその代替方針を紹介しています。
適切な抗菌薬の投与は敗血症の死亡率を減少させますが、不適切な抗菌薬使用は副作用と耐性菌の発生リスクを高めることが指摘されています。
救急現場では、症状の急性度や飼い主の要望により、必要性を確認しないまま抗菌薬が処方されることがあり、
診断に基づいた抗菌薬管理(antibiotic stewardship)が重要とされています。
不適切使用①:アモキシシリン/クラブラン酸による上部気道感染症・市中肺炎治療
アモキシシリン/クラブラン酸は広範囲に使用されますが、犬猫の上部気道感染症の主要原因(ウイルス、Chlamydia spp、Mycoplasma spp、Bordetella spp)
には有効性が低いことが報告されています。
猫のURIの多くはウイルス性であり、抗菌薬は不要です。発熱・元気消失・膿性鼻汁・食欲不振が併発する場合のみ投与を考慮します。
推奨される代替薬はドキシサイクリンで、上述の細菌すべてに感受性を示します。
犬の場合も、咳や軽度の鼻汁のみで全身状態が良好であれば鎮咳薬と隔離管理で十分です。肺炎へ進行した症例でも、
ドキシサイクリンが第一選択とされています。
不適切使用②:感染確認なしの尿路症状に対する抗菌薬投与
若齢猫の多くは特発性膀胱炎(FIC)であり、感染性ではありません。尿閉を伴う猫でも細菌感染は10%未満と報告されています。
犬では、下部尿路症状を呈する症例の約半数が細菌性膀胱炎を有しますが、残りの半数では抗菌薬が不適切に処方されています。
抗菌薬を使用する前に、尿沈渣のグラム染色またはWright-Giemsa染色で細胞内菌を確認することが高い精度で診断可能です。
また培養と感受性試験を実施することが原則であり、特に最近抗菌薬を使用した症例や院内感染が疑われる場合は必須です。
尿採取後は迅速に提出し、遅れる場合は冷蔵保存します。尿が採取できない若齢猫では疼痛管理・環境調整による支持療法が第一選択です。
不適切使用③:犬の急性下痢に対する抗菌薬投与
近年、非敗血症性の急性出血性胃腸炎や軽度下痢に対する抗菌薬投与は不要とするエビデンスが蓄積しています。
アモキシシリン/クラブラン酸を投与した群とプラセボ群で臨床経過や入院期間、死亡率に差がなかったと報告されています。
また、急性下痢犬をメトロニダゾール・プラセボ・プロバイオティクス群に分けた試験でも、糞便スコアの改善時間に有意差はありませんでした。
従って、全身状態が安定している犬では抗菌薬を用いず、整腸剤や支持療法中心の管理が推奨されます。
不適切使用④:エンロフロキサシンを1日2回投与
抗菌薬には「時間依存性(time-dependent)」と「濃度依存性(concentration-dependent)」があります。
エンロフロキサシンのような濃度依存性薬剤では、高用量・1日1回投与が最も効果的です。
頻回投与しても血中濃度上昇は限定的で、耐性化リスクを高める可能性があります。
一方、ペニシリンやセフェム系のような時間依存性薬剤では投与回数を増やすことが有効です。
不適切使用⑤:漫然とした長期抗菌薬投与
近年の研究では、人医療・獣医療の双方で、短期間投与(4~10日間)が長期投与と同等の治療効果を示すことが確認されています。
犬の肺炎でも14日未満の投与で再発率・症状改善率に差がないことが報告されています。
敗血症性腹膜炎、腎盂腎炎、肺炎などでも、必要最小限の期間(4~10日)で十分とされています。
臨床への示唆
○ 救急現場での抗菌薬投与は、「必要性・薬剤選択・投与期間」の3点を常に評価する。
○ ISCAIDガイドラインに基づく診断確認と短期投与が、抗菌薬適正使用(AMS)の鍵となる。
○ 飼い主への教育(抗菌薬が万能ではないこと、検査の必要性)も重要なステップです。
(文責:メールマガジン編集部)
※『Top 5 Inappropriate Antibiotic Uses in the Emergency Setting』
著者:Beth Davidow, DVM, DACVECC(Washington State University)
発行年:2021年10月(Clinician’s Brief 掲載・査読済み)
https://www.cliniciansbrief.com/article/top-5-inappropriate-antibiotic-uses-emergency-setting

