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リキッドバイオプシー”で犬のがんを拾う-侵襲の少ない腫瘍学が、静かに臨床へ-

2026年1月20日

2026年1月20日配信

 

リキッドバイオプシー”で犬のがんを拾う
cfDNA/ヌクレオソーム・バイオマーカー
-侵襲の少ない腫瘍学が、静かに臨床へ-

 

 

【はじめに】

犬の腫瘍診療では、生検や外科的侵襲を伴う確定診断が難しい症例、あるいは治療反応を頻回に評価したい症例が少なくありません。こうした課題に対し、血液中の腫瘍関連情報を解析するリキッドバイオプシーが、研究段階から臨床実装フェーズへ移行しつつあります。

近年の進展は大きく2つの方向性に整理できます。
1つはcfDNAをNGSで解析する多がん種検出(MCED)、もう1つは循環ヌクレオソーム濃度を用いた腫瘍負荷・治療反応モニタリングです。

 

【リキッドバイオプシーで「何を見ているのか」】

○ cfDNA(circulating cell-free DNA)
腫瘍細胞のアポトーシスや壊死により血中へ放出されるDNA断片で、NGS解析によりがん関連ゲノム異常のパターンを捉えます。
→ 主に「がんを拾いにいく」用途に向く。

○循環ヌクレオソーム
DNAとヒストンの複合体で、細胞死の増加により血中濃度が上昇します。
→ 量的変化を追いやすく、治療反応・進行モニタリングに適する。

 

【何が新しい?①】

○ cfDNA×NGSによる多がん種検出(CANDiD)
Floryら(2022)は、1,000頭超の犬を対象とした多施設研究で、cfDNAを用いた多がん種検出血液検査

(CANDiD)の臨床性能を検証しました。

●複数のがん種(リンパ腫、血管肉腫、骨肉腫など)を単一採血で検出
●進行例で検出感度が高い
●一部の無症候・初期例でも陽性化

これは、「犬でもMCED(multi-cancer early detection)が成立する」ことを示した、初めての

大規模臨床バリデーションです。

 

【何が新しい?②】

○ 循環ヌクレオソームによる治療モニタリング
Wilson Roblesらは、犬の様々ながんで血中ヌクレオソーム濃度が健常犬より有意に高いことを示しました(2022)。
さらに2023年には、血液腫瘍症例を中心に、
●治療反応例では濃度が低下
●進行・再燃例では再上昇
●臨床的進行に先行して変動するケースがある
ことを報告し、「繰り返し測定可能な病勢指標」としての有用性を明確にしました。

 

【日本での商品名・提供状況(実務上の重要点)】

○ ヌクレオソーム検査
●商品名:Nu.Q® Vet Cancer Test
●日本での提供:
富士フイルムVETシステムズが、犬のがんを対象とした血液受託検査として国内提供を開始
(2024年発表)。

●公式な位置づけ:
がんのスクリーニングおよび治療モニタリング補助として提供。
※がん種特定や確定診断を目的とする検査ではない。

 

○ cfDNA×NGS(CANDiD/OncoK9)
●研究上の検証対象:CANDiD(PLoS ONE 2022)
●海外での商用名:OncoK9®
●日本での状況:

現時点で一般臨床向けに広く提供されているとは言い切れず、研究・限定的導入段階と考えられる。

 

【臨床での使い分け】

○スクリーニング・疑い症例
●高齢犬
●侵襲的検査を避けたい症例
●画像検査前のリスク層別化
→ ヌクレオソーム検査が現実的

 

治療反応・再発モニタリング
●化学療法・放射線治療中
●画像検査の間隔をあけたい症例
→ ヌクレオソームの経時変化が有用

 

○cfDNA×NGS
●理論的には多がん種検出に強力
●日本では今後の展開待ちだが、方向性は確立

 

【副作用・限界・注意点】

●検査自体の副作用は通常の採血に伴うもののみ
●ヌクレオソームは腫瘍特異マーカーではない
(炎症・組織障害でも上昇し得る)
●陽性=がん確定、陰性=がん否定、ではない

リキッドバイオプシーは「答え」ではなく、診断プロセスを前に進める情報として位置づけることが重要。

 

【まとめ】

○犬の腫瘍学において、リキッドバイオプシーは、
・侵襲の少ないスクリーニング
・治療モニタリングの補助 という明確な役割を持ち始めている
○日本ではNu.Q®Vet Cancer Testが先行して臨床導入
○cfDNA×NGSは、エビデンスに裏打ちされた将来技術として注目される

 

=参 照=

※ Flory A, et al.
Clinical validation of a next-generation sequencing-based multi-cancer early detection blood test in over 1,000 dogs (CANDiD)
PLoS One, 2022

 

※ Wilson-Robles HM, et al.
Evaluation of plasma nucleosome concentrations in dogs with cancer and healthy dogs
BMC Veterinary Research, 2022

 

※ Wilson-Robles H, et al.
Monitoring plasma nucleosome concentrations to assess treatment response and disease progression in dogs with hematopoietic malignancies
PLoS One, 2023

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