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犬の慢性腸症(CIE/CE)に対するマイクロバイオーム治療~FMT(糞便微生物移植)がついにRCTフェーズへ~

2026年1月27日

2026年1月27日配信

 

犬の慢性腸症(CIE/CE)に対するマイクロバイオーム治療
~FMT(糞便微生物移植)がついにRCTフェーズへ~

 

【はじめに】

犬の慢性腸症(CIE/CE)は、
●食事療法
●抗菌薬
●免疫抑制療法
を段階的に行う治療アルゴリズムが確立している一方、食事反応性不応例や再燃を繰り返す症例では

治療の選択肢が限られていました。
こうした中、腸内細菌叢そのものを治療標的とするFMT(fecal microbiota transplantation:糞便微生物移植)が、

●ケースシリーズ
●観察研究

から一歩進み、無作為化比較試験(RCT)で検証され始めています。

 

【CIE/CEとマイクロバイオームの関係(前提整理)】

慢性腸症の犬では、
●多様性低下
●短鎖脂肪酸産生菌の減少
●潜在的炎症促進菌の増加
といった腸内細菌叢の乱れ(dysbiosis)が一貫して報告されています。
FMTはこれを「薬で抑える」のではなく「構成を入れ替える」アプローチです。

 

【何が新しい?①】

食事反応性不応CEに対する単回直腸FMTのRCT(2025)
2025年、Perez Accinoらは、食事療法に反応しなかった犬の慢性腸症を対象に、単回直腸FMTの有効性を無作為化比較試験(RCT)で検証しました。

 

○試験のポイント
●対象:食事反応性不応のCE犬
●介入:単回の直腸FMT
●比較:対照群(標準管理)
●評価:臨床スコア、反応率

 

○主な結果
●FMT群で臨床症状の改善が有意に多い
●単回投与でも反応する症例が存在
●重篤な有害事象は報告されず

 

=臨床的意義=
「FMTは”効くかもしれない民間療法”」から、
“RCTで効果を検証しにいく治療オプション”へと格上げされた点が最大の進歩。

 

【何が新しい?②】

食事不応CEの長期転帰とメタボローム変化(2025)
Vecchiatoらは、食事療法に反応しないCE症例を長期追跡し、
●臨床転帰
●腸内メタボローム(代謝産物)
を解析しました。

 

○重要な知見
●長期的に安定する症例と再燃する症例で、腸内代謝プロファイルが異なる
●特定の代謝経路(短鎖脂肪酸関連など)が、治療反応性と関連
●「腸内環境をどう再構築するか」が転帰に影響する可能性

 

=FMTとの接点=
FMTは、まさにこのメタボロームを含めた腸内環境の再設計を一気に行う介入であり、理論的裏付けが強化された。

 

【何が新しい?③】

パルボウイルス感染仔犬でのFMT RCTという先行例
FMTが「RCTに耐えうる介入」であることは、すでに急性疾患で示されています。
2018年、Pereiraらは犬パルボウイルス感染仔犬でFMTをRCTとして検証し、

●下痢改善までの期間短縮
●臨床回復の加速
を報告しました。

 

=重要な示唆=
●犬でのFMTは実施可能で安全性評価も可能
●急性疾患での成功が、慢性腸症RCTへの橋渡しになった

 

【実際の臨床での位置づけ(2025年時点)】

○FMTが検討される場面
●食事療法に反応しないCE
●抗菌薬・免疫抑制薬に抵抗性、または副作用が問題となる症例
●再燃を繰り返し、腸内環境のリセットを狙いたいケース

 

○FMTが第一選択にならない理由
●標準化(ドナー選定・投与法・回数)が未確立
●効果は全例ではない
●専門施設・倫理的配慮が必要

 

=現実的な位置づけ=
FMTは、
「難治性CEに対する”次の一手”」
として検討される段階。

 

【安全性・注意点(必須)】

●感染症スクリーニング済みドナーの使用が前提
●短期的有害事象は少ないが、長期的影響は完全には不明
●飼い主への十分なインフォームドコンセントが必須
●院内で安易に真似る治療ではない

 

=重 要=
FMTは「自然だから安全」ではなく、
生物学的製剤に近い慎重さが求められる。

 

【まとめ】

○犬の慢性腸症に対するFMTは、
●ケース報告 →
●観察研究 →
●RCT段階へ正式に進入
●特に食事反応性不応CEで、「効く例がある」ことを科学的に検証し始めた
●まだ標準治療ではないが、マイクロバイオームを標的とする治療戦略は、今後のCIE/CE管理の重要な柱になり得る

 

※参 照※
※ Perez Accino J, et al.
Single rectal fecal microbiota transplantation in dogs with chronic enteropathy: a randomized controlled trial
Journal of Veterinary Internal Medicine, 2025

※ Vecchiato CG, et al.
Long-term outcome and metabolomic changes in dogs with food-unresponsive chronic enteropathy
Scientific Reports, 2025

※ Pereira GQ, et al.
Fecal microbiota transplantation in puppies with canine parvovirus infection: a randomized clinical trial
Journal of Veterinary Internal Medicine, 2018

(文責:メールマガジン編集部)

 

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