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犬猫における腹腔穿刺の適応
2025年6月27日
犬猫における腹腔穿刺(アブドミノセンテシス)の適応
2025年6月24日配信
【概要・目的】
本稿では、犬猫における腹腔穿刺(アブドミノセンテシス)の適応、実施手順、注意点、合併症、分析法について、診断および治療的観点から詳細に解説されています。腹腔内に液体が貯留する疾患(出血、尿漏、感染、胆汁漏、腸内容物漏出、低タンパク性滲出液など)に対し、原因特定と迅速な治療判断のために本手技が推奨されます。
【主な適応と禁忌】
○適応:腹部波動の触知、画像検査(レントゲン・超音波・CT)での液体貯留所見
○禁忌:凝固異常、臓器腫大、穿刺部の創傷(特に出血リスクに注意)
【合併症と安全対策】
○重大な合併症は稀だが、感染拡大、臓器損傷、皮下出血や漏出の可能性あり
○超音波ガイド下穿刺では臓器損傷リスクを軽減
○穿刺後の腹腔内ガス(医原性)に注意し、画像所見は慎重に解釈
【前処置とモニタリング】
○重症例では鎮静不要な場合が多いが、活動的な動物には鎮静薬を使用
○鎮静薬の選択は全身状態や病態に応じて調整(例:メサドン、フェンタニル、ブトルファノールなど)
○モニタリングは心電図、血圧、SpO2、酸素投与などを実施
【穿刺手技の種類】
1. 超音波ガイド下穿刺
○液体が少量でも確実に採取可能
○臓器や血管の損傷リスクを低減
○穿刺角度は30~45度、リアルタイムに針の進行を超音波で確認
2. ブラインド穿刺(盲目的穿刺)
○通常、臍の1~3cm尾側から正中で穿刺
○穿刺技法:クローズド(注射器装着)/オープン(針のみで自然滴下)方式
○5~6 mL/kg以上の液体がないと陽性になりにくい
3. 4象限穿刺
○盲目的穿刺で液体採取に失敗した際に有効
○臍を中心に前後左右4点に針を刺入して回収感度を向上
4. 診断的腹腔洗浄(DPL)
○超音波が使用できない、または穿刺で液体が採取できない場合に選択
○生理食塩水を20-22 mL/kg注入し、回収して検査(回収量は注入量の約10%が目安)
5. 大量腹腔穿刺(治療的)
○心不全、腹膜腫瘍、低アルブミン血症などで腹水が多量の場合に実施
○閉鎖式採取システム(重力式または3方活栓使用)で感染リスクを低減
○人間と異なり、パラセンテーシス後の循環障害は犬猫では報告なし
【腹水の分析と診断】
○検体はEDTA管(細胞診)と無添加管(培養・生化学)に分けて保存
○腹水と血漿の比較により診断が可能(以下、主要疾患と評価項目)
疾患名 診断方法 所見
尿腹症
診断方法:腹水と血漿のKおよびCr比
所見:K比>1.4:1、Cr比>2:1
血腹症
診断方法:無添加管内の凝血有無、PCV・TP
所見:凝固しない血液、PCVが末梢血と同等以上
腹膜炎(敗血)
診断方法:細胞診、腹水グルコース<20 mg/dL、乳酸>2 mmol/L
胆汁性腹膜炎
診断方法:細胞診(ビリルビンクリスタル)、腹水中ビリルビン高値、胆汁酸
腫瘍性腹水
診断方法:異型細胞の検出(細胞診)
【臨床応用への示唆】
○腹腔穿刺は迅速診断により外科的介入の判断が可能となる
○超音波ガイド下穿刺やDPLを適切に使い分けることで診断精度が向上
○安全性の高い技術であり、重症例でも実施可能
○採取液の分析により、疾患の鑑別と治療方針の決定に直結
※『Step-by-Step: Abdominocentesis in Veterinary Patients』
著者: Wan-Chu Hung, DVM, MS, DACVECC; Adesola Odunayo, DVM, MS, DACVECC
発行年: 2025年3月