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猫におけるホーナー症候群
2025年8月6日
2025年8月5日配信
猫におけるホーナー症候群:診断度治療のポイント
ホーナー症候群は、猫および犬に発生する比較的一般的な神経疾患で、交感神経系の障害により片側の顔面に特有の眼科的変化を引き起こします。
猫においては、特に第三眼瞼(瞬膜)の突出と縮瞳(miosis)が目立つ臨床所見として現れます。本稿では、ホーナー症候群の診断、鑑別、治療方針について簡潔に解説します。
●主な臨床症状
以下の眼科的異常が一側性に認められることが多いです:
①第三眼瞼の突出(nictitansの挙上)
②上眼瞼の下垂(眼瞼下垂)
③眼球の陥凹(眼球が奥に引っ込む)
④縮瞳(miosis)
暗所では、健常側の瞳孔が拡張する一方で、患側の瞳孔は縮瞳を維持するため、左右の瞳孔差(瞳孔不同)が顕著になります。
●鑑別診断
ホーナー症候群と類似の症状を示す疾患には以下のようなものがあります:
①前部ぶどう膜炎:痛みによる縮瞳や第三眼瞼突出が見られるが、炎症所見(眼圧低下、前房フレア、結膜充血など)を伴う。
②角膜潰瘍:疼痛により瞬膜挙上が見られることがあるが、蛍光色素染色で潰瘍が確認できる。
③眼外傷や異物:視診や細隙灯検査で確認可能。
●診断方法
最も有用なのは薬理学的テストです:
○ 1%フェニレフリン点眼テスト:片眼に点眼し、10?20分以内に第三眼瞼の正常化、眼瞼の開き、眼球位置の改善が見られれば後神経節性(第三次ニューロン)の障害が疑われます。
他のテストとしては、以下が考慮されます:
①1%ヒドロキシアンフェタミンテスト:後神経節性か前神経節性(中枢性または頸部病変)かの鑑別に有効(要24時間以上の間隔)。
②6%コカイン点眼:診断には使われることもあるが、法的・実用的制約が多く、現在は推奨されません。
●原因と治療(最新知見を含む)
原因
1.外傷・手術
《主な疾患・状況》
交通事故、頭部・胸部打撲、耳掃除、内視鏡チューブ挿入。
《概要》
頚部交感神経への直接的なダメージや牽引による発症。特に胃瘻チューブ挿入後の症例が報告あり。
2.感染・炎症
《主な疾患・状況》
中耳炎、内耳炎。
《概要》
中耳から内耳構造に炎症が及ぶと神経障害を引き起こす 。
3.腫瘍や血管障害
《主な疾患・状況》
胸部・頸部・頭蓋内の腫瘍、血栓
《概要》
進行性の神経圧迫・血流障害。CT/MRIなどの画像診断が必要。
特発性(原因不明)
《概要》
猫では40%、犬で約50%の症例が特発性。自然回復が多い。
その他
《主な疾患・状況》
脊髄梗塞、自律神経障害。
《概要》
希だが、他の神経疾患との鑑別が必要。
●治療と経過
1.対症療法
潤滑剤点眼で角膜保護。
必要に応じてフェニレフリン点眼で外観改善(症状が気になる場合)。
2.原因に基づく治療
中耳炎:抗生物質+鼓膜洗浄または手術。
腫瘍性病変:摘出、放射線・化学療法。
3.特発性症例の管理
猫では6週間以内に自然回復することが多い。
犬でも多くは4?15週間で改善が期待される。
4.再評価が必要な場合
症状が改善しない場合、MRI/CTによる画像診断や追加の神経学的検査が推奨される。
●まとめ
ホーナー症候群は、外見上目立つ眼症状を呈するため、見逃されにくい一方、原因の特定が困難な場合も多くあります。適切な鑑別と薬理学的検査を行うことで、診断と病変部位の推定が可能です。原因が特定できない場合でも、多くは自然に改善するため、不要な治療を避け、慎重な経過観察が望まれます。
※参考文献
『Elevation of the Third Eyelid & Miosis in a Cat』
著者: Carmen M.H. Colitz, DVM, PhD, Diplomate ACVO
発行年: 2007年
https://www.dvm360.com/view/elevation-third-eyelid-miosis-cat