DVMsどうぶつ医療センター横浜農林水産省獣医師臨床研修指定施設

会員病院向け情報

犬の口腔外科手術に抗菌薬は本当に必要か?

2025年12月16日

2025年12月16日配信

犬の口腔外科手術に抗菌薬は本当に必要か?

=一過性菌血症の実態と抗菌薬適正使用の考え方=

 

【研究の概要と目的】

本論文は、健常犬に対する口腔外科処置(スケーリング、ルートプレーニング、抜歯など)における

抗菌薬投与の必要性を検証したレビューです。取り上げられている主な臨床研究(Blazevich & Miles, 2023)は、

抗菌薬を投与しない条件下で、処置中に発生する菌血症の頻度と持続時間を調査しています。
背景には、人医療および獣医療の双方で問題となっている「抗菌薬の過剰使用」と、それに伴う耐性菌拡大の

懸念があります。

 

【対象と方法】

健常犬13頭(軽度~重度の歯周病を含む)を対象に、通常の歯科処置を実施。
採血は以下の5つのタイムポイントで行われました:
1.処置前(静脈留置時)
2.処置開始5分後
3.最初の抜歯から5分後
4.処置終了時
5.処置終了1時間後
得られた検体を血液培養し、菌血症の有無とその推移を評価しました。

 

【主要な結果】

○処置中(スケーリングや抜歯時)に一過性の菌血症が認められた症例は38.5%。
○しかし、処置前および処置終了1時間後の検体では菌血症は検出されず、菌血症は自然消退

していました。
○全例で抗菌薬の投与は行われていませんが、感染性合併症は報告されませんでした。

これらの結果から、健常犬の通常の口腔外科処置では、周術期の抗菌薬常用を支持する根拠は

乏しいと結論づけられています。

 

【臨床的示唆と実践ポイント】

1.健常犬では原則として抗菌薬不要:

処置により一過的な菌血症は生じますが、短時間で消失します。
Routineでの周術期抗菌薬投与は推奨されません。

 

2.高リスク症例では慎重な判断を:
心疾患(弁膜症、心内膜炎既往)、免疫不全、糖尿病など、感染合併症リスクの高い個体では、

抗菌薬投与を考慮すべきとされています。
菌血症の有無だけでなく、全身状態や手術侵襲の程度も評価に含めることが重要です。

 

3.抗菌薬適正使用(AMS)推進の観点:
不要な抗菌薬投与を避けることで、耐性菌対策と医療安全の両立が期待できます。術前の健康

チェック(心雑音、慢性疾患、免疫抑制薬使用歴など)を徹底し、本当に必要な個体だけに投与

する体制づくりが求められます。

 

【研究の限界と今後の課題】

○症例数が13頭と少なく、長期的な創傷治癒や感染率の追跡は行われていません。
○歯周病以外の疾患や、重度の全身疾患を併発する犬への外挿は慎重であるべきです。
○今後は、より大規模で前向きな研究が必要とされています。

 

【結論】

健常犬に対する口腔外科・歯科処置では、処置中に一過性の菌血症は発生しても短時間で自然に消失し、

抗菌薬の routin使用を支持する根拠はないと報告されています。
抗菌薬は、高リスク個体に限定して、臨床的リスク評価に基づき選択的に投与することが推奨されます。
この知見は、今後の獣医歯科領域における抗菌薬適正使用(AMS)指針の策定にも重要な示唆を与えます。

 

※参考文献
『Are Antibiotics Necessary for Oral Surgery?』
著者:Samuel G. Babbitt, DVM, DAVDC(Clinician’s Brief)
最終更新:2024年4月

URL:https://www.cliniciansbrief.com/article/antibiotics-dental-periodontal-disease-infection

参照論文:Blazevich M, Miles C. The presence of bacteremia in 13 dogs undergoing oral surgery without the use of antibiotic therapy. J Vet Dent. 2023.

(文責:メールマガジン編集部)

pagetop

pagetop