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犬の視覚が捉えている世界

2025年12月9日

2025年12月9日配信

犬の視覚が捉えている世界

 

犬の視覚情報は網膜で光や映像が神経信号に変換され、視神経、視交叉、視索、外側膝状体核を経て視放線に伝達され、

後頭葉の一次視覚野(V1)に届きます。しかし視覚中枢での活動は、長く謎に包まれていました。
近年、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)が犬にも応用され、脳活動を非侵襲的に可視化できるようになり、

2012年にエモリー大学のバーンズ博士らは、犬を麻酔や拘束なしで報酬のみでMRI内に静止させる訓練を行い、

最大24秒間、頭部移動1mm未満で測定することに成功しました。

 

fMRIはBOLD(Blood-Oxygen-Level-Dependent)効果により、血流変化から活動部位を捉えます。
犬の大脳は前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉に分かれますが、ヒトと比べ前頭葉が相対的に小さく、

嗅覚野が大きい点が特徴です。また大脳回の複雑性は低く、一次視覚野(V1)までの経路はヒトと同様でも、

その後の情報処理は異なります。

 

犬の一次視覚野(V1)はコントラスト、動き、エッジ検出、方位選択に敏感で、

外界の空間配置を把握しますが、犬の網膜に中心窩がなく中心視野の解像度は低く、色の識別能力も弱めです。

一次視覚野(V1)からの高次視覚処理はヒトほど明確な階層構造はありませんが、腹側視覚路(Ventral Stream, “What”)

と背側視覚路(Dorsal Stream, “Where/How”)という二重視覚路は存在します。

 

腹側視覚路は後頭葉内側および側頭葉内側で物体認識や色処理を行い、形やテクスチャの統合により恒常的な形状認識を

可能にします。また嗅周皮質や海馬、扁桃体と連携し、記憶や情動反応とも結びつけます。さらに側頭葉外側偽シルビウス

溝周辺では、顔や身体など視覚情報とヒトの声など聴覚情報を統合し、社会的行動に関連するマルチモーダル処理も示唆

されています。

 

一方で背側視覚路は、一次視覚野(V1)から頭頂葉の高次視覚野で空間認知を担当します。飛んでくるフリスビーの軌道予測、

障害物回避、目標に向かう視覚誘導運動、飼い主の動作への適応など、行動の制御に直結します。

 

犬の視覚情報の全貌や、他感覚との統合過程はまだ解明途上です。しかし犬が人と深く社会的に通じ合える能力

(収束的社会的認知能力)には、視覚が重要な役割を果たしていると考えられます。

 

〈文責:DVMs眼科 印牧信行〉

 

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