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キャバリアのドライアイ・カーリーコート症候群
2025年7月11日
2025年7月8日配信
キャバリアのドライアイ・カーリーコート症候群
キャバリアとは「キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル」の略称で、日本では愛玩犬として人気が高く、穏やかで飼いやすい性格の「理想的な家庭犬」と言われる犬種です。外観は大きな垂れ耳と丸い瞳、絹のような美しい毛並みと豊富な飾り毛を特徴としています。 この犬種の留意すべき眼科疾患は小眼球症、乾性角結膜炎、「先天性乾性角結膜炎と魚鱗癬様皮膚症」、睫毛重生、角膜ジストロフィー、露出性角膜症、瞳孔膜遺残、白内障、硝子体変性症、網膜異形成が挙げられています。今回は、「先天性乾性角結膜炎と魚鱗癬様皮膚症」についてお話しします。
キャバリアの「先天性乾性角結膜炎と魚鱗癬様皮膚症」はCKCSID(Congenital Keratoconjunctivitis Sicca and Ichthyosiform Dermatosis)と略される疾患で、眼の乾き(ドライアイ)と、被毛の異常(縮毛)を主な特徴とする先天性疾患です。1994年、Alhaidari, Zらが「キャバリアの先天性魚鱗癬」と題する症例レポートを発表し、皮膚症に随伴するドライアイを報告しました。
このドライアイは皮膚病変治療薬のエトレチナートによる副作用とみられていましたが、2006年、Barnett, KCによってCKCSIDが初めて報告されました。この疾患は英国や米国のキャバリアのブリーダーの間では「ドライアイ・カーリーコート」、「ドライアイ・ラフコート」と言われていました。そのため、この疾患を「キャバリアのドライアイ・カーリーコート症候群(Dry Eye Curly Coat Syndrome)」とも呼ばれています。日本では馴染みがない疾患です。
この症候群は、目、皮膚、被毛、爪、肉球に障害を及ばす常染色体劣性遺伝疾患です。症状は生後2~10週齢頃から出始め、成体期まで進行します。目では、涙の量や質が低下し、目が乾燥します。そのため結膜充血、粘液性眼漏、眼の掻痒感があり、進行すると角膜潰瘍や角膜白斑による視覚障害がみられます。
皮膚・被毛では生後間もなく被毛が粗く巻き毛状になり、脂っぽく、不潔感がある外観を示し、角化亢進を伴う皮膚炎を起こしやすくなります。爪・肉球は変形した爪が定期的に脱落し、肉球が厚く、ひび割れたり、剥がれたりして痛みを伴います。また歯肉炎、口臭、軟便、下痢、発育障害がみられます。
この症候群の原因はFAM83H遺伝子の変異で、DNA塩基配列のエクソン5にある1塩基の欠失が、1151から582アミノ酸のペプチドを切断し、C末端に257個の異常アミノ酸を生じさせることであると予測されています。
私たちは一つ一つの症状が日常よくみる臨床症状であっても、このCKCSIDのような特殊な疾患を見逃さない認識が常に必要かもしれません。
〈文責:DVMs眼科 印牧信行〉
眼の健康診断 「アイ・ドック」https://yokohama-dvms.com/eyedock/