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生涯を通じて存在する、核を持たない水晶体線維細胞
2025年11月4日
2025年11月4日 配信
生涯を通じて存在する、核を持たない水晶体線維細胞
水晶体は高い屈折率を持ち透明性を保つための特殊なタンパク質を持つ構造物です。その特殊なタンパク質はクリスタリンと呼ばれ、
水晶体線維細胞の細胞質として存在します。この水晶体線維細胞の維持は、核硬化症や白内障の理解を深める上で重要な関心事です。
今回は水晶体線維細胞のお話しです。
水晶体は水晶体嚢に包まれた水晶体上皮細胞と水晶体線維細胞からなります。水晶体の大部分を占める水晶体線維細胞は、
生涯を通じて水晶体赤道部の水晶体上皮細胞から分化・伸長し、既存の水晶体線維細胞を同心円状に包む層として継続的に追加される細胞です。
このように伸長された細胞の大きさはもと細胞に比べ数百倍に達します。この伸長過程で、水晶体線維細胞はまずアポトーシス(細胞死)
でない細胞核DNAの断片化と核膜崩壊が起こり、次いで核の残骸やミトコンドリア、小胞体、ゴルジ体といったオルガネラ(細胞小器官)
を除去する特殊なオートファジー(細胞の自食作用)が実行されることで、生涯を通じて存在する長寿命の構造になります。
オートファジーとは、細胞が自身の構成要素(損傷したタンパク質、老朽化したミトコンドリア・小胞体、細胞質の一部など)を分解し
再利用する機構を指します。しかし水晶体におけるオートファジーは特殊で、水晶体線維細胞の分化成熟過程においてオルガネラを恒久的に
除去する機構で、クリスタリンの維持に役立っています。これは進化の過程でオートファジー本来の役割とは違った適応転用、すなわち外適応
(Exaptation)を示しています。
水晶体線維細胞は細胞小器官のない空間、いわゆるオルガネラフリーゾーンにクリスタリンが収められており、その濃度は500mg/mlを超える
レベルにまで濃縮されると言われています。人や犬猫のクリスタリンはα-、β-、γ-クリスタリンの3分類にされますが、分子生物学的には
α-クリスタリンとβγ-クリスタリンに大別されます。α-クリスタリンは小型熱ショック/ストレスタンパク質ファミリーに由来するタンパク質です。
またβγ-クリスタリンはβヘリックス構造を持つタンパク質に由来し、高い安定性と構造的緻密さを細胞内タンパク質に与える役割があり、
またその一部は酵素タンパク質として機能します。
クリスタリンは水晶体では透明な物質として機能するタンパク質ですが、進化的には別の役割で適応転用されたタンパク質に相当し、
これもまた外適応とみなされています。クリスタリンは水晶体線維細胞の分化成熟過程で、水晶体皮質から水晶体核に向かってその濃度を
増加させる屈折率勾配を作り、屈折特性と損傷耐性が最適化されたタンパク質を成しています。
水晶体線維細胞の異常を示す病態が白内障です。その原因は水晶体上皮細胞に関連した、 ①クリスタリンの変性・凝集、②細胞の変性、
③白内障手術後の線維化に依るものと言われています。「水晶体は生体にある透明な屈折器である」と当たり前に私たちは理解していますが、
実は水晶体は複雑な進化を遂げた外適応の「モザイク器官」です。
このような理解は水晶体線維細胞から水晶体を理解する一助になるものと推察されます。
〈文責:DVMs眼科 印牧信行〉
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